1 どのような情報処理能力を育てればよいか?
根源的な問題にぶつかった時は、原典(向山氏の実践)にあたる必要がある。原典は、「向山洋一年齢別実践記録集第19巻」にある「資料活用の基礎的能力の系譜」である。 向山氏は、次のように書かれている。引用する。
1 私は、5年生担任の昨年、資料活用能力の実態について、4回にわたって実態調査をした。その時、調査の対象としたのは、次のような項目であった。 A 資料集から資料を探せる B 資料の必要要件がわかる C 資料が読める D グラフの変化が読める E 分析・総合ができる F 課題に沿った情報の選択ができる G 情報の構成ができる H 調査・検証ができる I 発表ができる ↓ J 仮説をたて検証することができる
(「向山洋一年齢別実践記録集第19巻」P58)
このA~Jまでの一つ一つの項目が指導項目になり情報処理能力の育成に他ならない。情報処理能力は、社会で言うところの「基礎・基本」であるからである。向山先生は、次のような言葉で定義づけをされている。引用する。
0 「基礎」の範囲 1 本調査では「基礎」の語の指示範囲を次のように限定する。 私の学級における社会科授業の中で、日常的にくり返し必要とされる資料活用の学習活動の諸要素。
(「向山洋一年齢別実践記録集第19巻」P68)
この上に記した「資料活用能力A~J」の項目を授業で行うのである。 しかし、「資料活用能力A~J」の項目一つをとっても、考え抜かれたものである。分析が必要である。次に「E 分析・総合ができる」について分析する。
2「E 分析・総合ができる」とは
向山先生の「資料活用の基礎的能力」「自己学習の基礎的能力」の分析の中に二度登場する項目がある。それが、「分析・総合」である。引用する。
4 分析・総合
1 情報をある視点から概括できる子は2/3である。
2 法則化(仮説化)できる子は2名。それに近い子を入れても半数である。
3 矛盾する情報を「関係把握」する子は2名。それに近い子を入れても1/3である。
Aつまるところ、この能力が一番低い B「仮説化」するとはどういうことか教える必要がある C「仮説」を実際につくらせてみる必要がある D研究授業では、このもっとも弱い部分をとりあげてみたい
(「向山洋一年齢別実践記録集第19巻」P73)
向山学級で、5年生の冷害・漁業「自己学習の基礎的能力」(実態調査2)の段階において「分析・総合」の力が一番低いのである。この力を「仮説化」の技術を通してつけさせているのである。しかし、この「分析・総合」する能力の中でも「断定すること」については注意してある。引用する。
社会科の学習において、断定はさけるべきであるというのは次の理由による。
A「条件Aによる結果B」を考えるとき「条件A」を統制しにくい。ふつうは多くの条件が作用する。
B立場、視点によっていくつかの見方が可能となる。
C小学生には、いろいろな見方や判断を「批評」するという力がない。
(「向山洋一年齢別実践記録集第19巻」P19)
この注意をもとに「分析・総合」の力をつけてあるのだ。
「批評」の能力は、向山先生の1984年に行われた「立会い授業」において顕著に表れている。その時の研究主題は、次のようである。引用する。
研究主題 日本の歴史を理解するための資料を活用できる能力を育てる授業であるためには、どのような発問と指導をすればよいのだろうか
(教え方のプロ・向山洋一全集13教師に衝撃が走った「立ち会い授業」P29)
この「立ち会い授業」では、二種類のグラフを用いている。二種類のグラフを扱うことで、「批評」ができる。しかも、平凡社の世界大百科事典のまちがいを批評するのである。「分析・総合」の能力は、「批評」の能力とセットで考えられるべきものである。
堀田龍也氏の論文に次のようにある。引用する。
「要するに、メディアが伝えるものは「事実」ではあっても、「事実のすべて」ではないことを教えるということである。限られた時間・紙面で表現される情報は、当然事実の「一部」を切り取ったものであり、その情報は発信者によって「編集」されているということを教えるということである。」
(No.531 2000年12月号 現代教育科学 明治図書)
イデオロギー・為政者のエゴなどによって簡単に情報が操作されている世界から本当に自分に必要な情報を見つけ出す能力を育成するためにも行われていくべきである。情報が加工されることを知り、事実をとらえる時に批評できるようにする。そのような子どもを育てなければならない。
「資料活用能力A~J」の一つ一つの項目について上記のような分析をした上で指導案に次のように表して行く必要がある。
3 情報処理能力を明示した指導案5つのポイント
1 「資料活用能力A~J」のどの項目を育成するかを指導案に表す。 2 授業のどの場面で行うかを指導案に表す。 3 また、その「指導方法」を指導案に表す。 4 「情報処理能力」についての実態を児童の実態として指導案に表す。 5 「情報処理能力育成の指導歴」を指導案に表す。
指導案に明示する「子ども達につける情報処理能力の分析」が必要である。
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